吉備塚古墳

※下記の文は、すべて当日の配付資料の転載です。

現地説明会資料
2004年2月7日(土)
奈良教育大学

はじめに

吉備塚古墳は、春日大社の南約1km、奈良市高畑町奈良教育大学構内の北辺に位置する。昔から吉備真備の基と伝承され、現状はササに覆われ、クヌギの大木がある。昭和61年に銅鏡が表採されたが、他に遺物は知られておらず、測量は行われているものの、調査は行われていなかった。昨年度より分布調査および確認調査を開始した。

2.調査の経緯と概要

平成14年度から奈良教育大学の教育研究プロジェクトとして、調査委員会を組織し、秦良教育大学文化財コースが作業を担当して調査を実施した。

昨年度は、東西南北に十字にトレンチを設定し、墳頂部の埋葬施設と墳丘封土の確認を行った。本年度は、北側の埋葬施設を主に精査すること、及び墳丘の範囲確認を目的として調査を行い、現在に至る。

3.調査の成果

【墳丘】

墳丘は周囲から撹乱を受け、南部と西部および南西部では封土が確認されるが、東部と北部は大きく改変される。径約25m以上の円丘が推測されるが、高まりが北西に延びるため推定全長釣40mの前方後円墳になる可能性もある。墳丘からは5世紀後葉の埴輪が中世以降の遺物と伴に出土する。墳頂部は撹乱が少ないが、ほぼ表土直下に埋葬施設が位置する。比高は約4mである。

【埋葬施設】

埋葬施設は、並行して南北に2つあり、軸を東南東から西北西に向ける。南側の埋葬施設(第1埋葬施設)が北側の埋葬施設(第2埋葬施設)より床面が深く、墓壙の切れ合いから下部になる。

【第l埋葬施設】(未掘)

木棺直葬で、弱い朱面が確落された。東部に近代の撹乱坑があり、昭和61年に表採された画文帯環状乳神獣鏡の破片が出土した。紺色のガラス小玉が検出されたほか、トレンチ西断面に鉄刀の茎が覗く。画文帯環状乳神獣鏡は熊本県江田船山古墳など9面の同型鏡が知られている。

【第2埋葬施設】

割竹形木棺直葬で、両木口に人頭大の石を配する。全長約350cm内法約250cm、現存で幡約50cm深さ約10cm。棺内には、南東の棺側に三累環頭大刀、北西の棺側に鉄刀(長さ約113cm)、西側木口に挂甲が副葬される。三累環頭大刀と鉄刀は刃先を外側に向け、三累環頭大刀は佩裏を上面とする。

【三累環頭大刀】

長さ約93cm、幅約3cm。三累環式の柄頭を有する。柄装具は、三累環頭、筒金具、銀線、鞘縁金具と続く。
三累環は金銅製で、下方の二環が筒金具に喰い込み基部の区別が明確でなく古式である。三累環内に金銅製の人物像(神像)を配する。環頭の茎と刀身の茎を目釘によって筒金具も含めて綴じ合わせる。筒金具と柄縁金具はいずれも銀製で、筒金具は断面八角形を呈する。責金具は金銅製で刻み目等が施される。柄間は刻み目のある銀線纒きで両端が密である。鞘口金具は銀製筒形で内部に鞘縁金具が入り込み、呑口式である。
鞘口金具の切先側にも同様の金銅製の棄金具を有する。鞘には一条の金製の鋲留めの飾りが入る。鞘尻金具は少し離れて検出された。同様に銀製で責金具を伴う。なお、佩表となる下面には、布、木部の残存が認められる。レントゲンにより、刀身に人物像(神像)、龍虎文、花文の3組の象嵌を持つことが判明した。

三累環頭大刀としては古式であり、刀身に文字以外の図像としては最高級である。刀身象嵌の龍虎文は国内2例日であり、人物像(神像)は他に類をみない。

【他の遺物】

上部の表土直下から、轡2対、雲珠(破片)1、鉄鏃が出土。馬具類は型式的に畿内で出土例の少ない貴重な資料である。

調査目的 学術調査
調査期間 平成14年11月25日〜平成15年1月24日、平成15年11月25日〜継続中
調査主体 奈良教育大学発掘担当者:金原正明 調査員:西村誠治・下岡順直
調査組織 吉備塚調査委員会、奈良教育大学教育学部文化財コース
調査協力 奈良県立橿原考古学研究所(佐々木好直)、奈良市教育委員会(鐘方正樹)、奈良県教育委員会、奈良大学、立命館大学、奈良文化財研究所
調査委員 伊達宗泰(平成14年度委員長)、和田晴吾(平成15年度委員長)、中村浩、寺澤薫、松田真一、森下恵介、西山要一、長友恒人(副委員長)、脇田宗孝、平賀章三、金原正明(調査担当)、山岸公基、大山明彦